NEWSLETTER FROM ON READING 2025.02.21

名古屋のbookshop & gallery ON READINGから、週に一度のニュースレターをお届けします。
ON READING 2025.02.21
誰でも

こんにちは、ON READINGの黒田義隆(義)と黒田杏子(杏)です。台湾から戻り、一段と寒さが身に堪えております。充実した冬休みも終わり、また張りきって営業していきたいと思います。来週末は早くも『岐阜駅 本の市』でございます。ご来場、ご来店お待ちしております!!

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EVENT

岐阜駅 本の市 2025
日程:2025年3月1日(土)、2日(日)
会場:JR岐阜駅直結 アクティブG 2階3階
2階 古書市:10時~19時(2日(日)は17時まで)
3階 Independent Publishing Market:両日とも11時~17時
主催:BOOK POSSE(徒然舎・ON READING)

昨年、大盛況でスタートしたブックイベントを、今春も開催します!愉快で元気で実力ある古本屋さんによる、東海エリア最大級の「古書市」と、本の書き手、作り手と読者が出会い、交流できる、小さな〈文フリ〉のような企画「Independent Publishing Market」とを同時開催!  

多木陽介・坂本大祐・青木真兵トークイベント
「よい仕事」をするために 〜プロジェッティスタと土着思考~

日程:2025年3月4日(火)
時間: 開場 19:00 開演 19:30~
入場料:2,000円(ON READINGお買物券500円分付)
定員:25名(要予約)
予約:https://onreading.jp/event/20250304/

ローカルでクリエイティブに携わる方にはもちろん、デザイナーやクリエイターを目指している方や学生、これからの生き方について考えたい人などにもおススメのイベントです。ぜひご参加ください~!  残席わずかですよ~!

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入荷情報 PICK UP

物物 / 猪熊弦一郎、ホンマタカシ、岡尾美代子
ひさ~しぶりの嬉しい重版!再入荷しました。画家・猪熊弦一郎が集めた「物」をスタイリスト・岡尾美代子が選んで、写真家・ホンマタカシが撮影したコレクション・ブック。それぞれの視点によって瑞々しい魅力を発見された「もの」たちを、じっくりと味わえる一冊。

坂本龍一のプレイリスト / 吉村栄一
コンピレーションアルバム、ラジオ番組、書籍などで坂本龍一自身がセレクトした楽曲、約150曲をを、『坂本龍一 音楽の歴史』の著者・吉村栄一が紹介、レビューした一冊。

DRAMATIC 寺田燿児短篇漫画集 / 寺田燿児
イラストレーターとしても活躍中の寺田燿児(yoji & his ghost band)による漫画作品集。“劇的なるものからとおくはなれて。”

私の猫 / 十文字青
作家、十文字青による、私小説的作品「私の猫」をはじめとする猫が登場する小説作品4篇をまとめた短篇集。装丁・名久井直子、装画・タダジュンのとっても素敵な造本です。

One / 塩川いづみ
イラストレーター、塩川いづみによる作品集。2024年夏に〈GALLERY CLASKA〉で開催された展覧会『One』で塩川いづみが描いた、発表した作品29点に新作2点を加えた全31点を収録。自由なタッチで、犬たちとその視線の先にある世界を描いています。

向日葵 / 安森信
写真家の安森信による写真集。長崎市長選の最中に射殺された伊藤一長元市長の足跡を辿りながら、暴力が引き起こした出来事と平和への想いを、写真を通して記憶に刻む。

残された風景 / 頭山ゆう紀
生と死、時間や気配など目に見えないものを写真に捉えようとする写真家、頭山ゆう紀による待望の新写真集。亡き祖母の在宅介護の時間に撮影されたシリーズ。

KIYOSATO MUSEUM OF CONTEMPORARY ART. ARCHIVE II: FLUXUS AND ITS SURROUNDINGS
2014年に閉館となった個人美術館「清里現代美術館」の資料をまとめるアーカイブブックシリーズ。第2巻ではコレクションの中から「フルクサス」とその周辺の資料、特に出版物を中心にまとめ紹介している。  

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RECOMMEND BOOK !

目に見えない社会や政治と呼ばれるものは私達の体に関係はあるが、関係はない。それは指先の触れたその一点に潜み、笑顔の中にあり、たとえその主体による主体性でもってしても感じ取れるものではない、建物や風景、人間をふくむいきもの、光や風のあいだにたぶんある。目に見えないものはあらゆる小さな主語の中にある。
富澤大輔『新乗宇宙』より

台湾生まれの写真家、富澤大輔による写真集『新乗宇宙』。

台湾から帰ってきて、改めてみましたが、やはり…名作です。そして、この中に、私たちも案内してもらった石頭廟で撮られた写真を見つけたので、今週はこちらをご紹介することにしました。

2020年1月11日。香港でのデモが日々続き、未知のウイルスの存在に少しずつ世界が視線を向け始めた頃、台湾では「中華民国総統選挙」が行われた。この選挙は台湾の事実上の独立状態を継続する姿勢の民進党と、中国(中華人民共和国)との関係の強化を主張する国民党のどちらが選ばれるかという大きな岐路に立たされたものだった――。

本作「新乗宇宙」は、2019年から2020年1月11日までの緊張と憂鬱をいつも頭のどこかに抱えながらすごした日々に、生まれ育ったその土地を撮影した作品群。

今回、富澤さんと一緒に歩き、シャッターを切るスピード、テンポ、ノーファインダーでばしばし撮っている姿を目の当たりにしました。ここにおさめられた写真に「意味」を見出そうとする自分、それに抗おうとする自分。見てきたもの、聞いてきたこと。混沌の中で「今」を考えることに立ち返ろうとした本作を見ていると、富澤さんのガンバーから問いかけられた、「君たちから見て、私たち台湾人は幸せそうに見えるか?」という言葉が思い起こされます。

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枝葉末節な日々

今週の担当:(杏)

2/14(金) 台湾二日目。昨夜ホテルについたとき、寝室と、水回りエリア(バスルーム+トイレ+洗面台)の壁が一面ガラス張りで仕切られていて「なんで!」と爆笑していたのだが(シャワールームはまだしもトイレがガラス張りなのは、いかなる関係においても気まずいであろう。むろん、寝室側にカーテンがある)朝、起きてその理由がわかった。バスルームの向こうが大きな窓になっていて、この部屋唯一のあかりとりなのだ。省スペースの工夫として理にかなっているなと思う。今回の展示会場である朋丁(pon ding)も、いくつかの棟がくっついているような作りの雑居ビルで、建物の内側が吹き抜けで、そこがあかりとりになっている。中庭が作られていていい感じ。11時に景子さんと、歩いて朝ごはんを食べに行く。四海豆漿大王は、以前、台湾のイラストレーター紅林ちゃんに連れてきてもらったところ。鹹豆漿(豆腐のぐずぐずしたの)、蛋餅、小籠包、よっさんは焼餅+油條元(揚げパンをパンに挟んだもの)も。たらふく食べて3人分で1000円もいかなかった。円安なので以前は3.5くらいで換算していたところを4.5くらいで換算するので感覚としては高くなってるけど、それでも文化としての食の手軽さは変わらない。屋台のようなお店も多く、どっしり腰を据えて三食食べるというよりも、ちょこちょこさくっとずっとなにか食べている。私は日頃、二食+おやつちょこちょこという食生活をしているのだが、先週歯医者さんに「それは一番虫歯になりやすい食習慣」と言われたのを思い出す。台湾の人たち、虫歯は大丈夫なんだろうか。唾液が強いんかな。午後、朋丁(pon ding)の搬入の仕上げを終えて、景子さんと街に繰り出す。景子さんは英語はそんなにできないけれど、コミュニケーション能力がめちゃくちゃ高い。お互いに片言の英語のみで、タクシーの運転手さんと意気投合していた。朋丁(pon ding)のイチョウさんお薦めのお店で、花を買う。景子さんが「ホテルに花飾りたいな」と一輪選んだあとで、野の草や花でできた愛らしい小さな花束を売っているのを見つけた。「こっちにすればよかった~」と言うので、これは私が買って景子さんにプレゼントすることにする。そして大本命のお菓子屋さん、手天品へ。イチョウさんも、マイ・ベスト・パイナップルケーキだと言っていた。「前回行った時には1万円くらい使っちゃった」と景子さんが言っていて、「まさか~買い込みすぎ!」と笑っていたのだが、私たちもまんまとそれぐらいになった。素朴だが丁寧に作られていることがわかる小さな工房で、パイナップルケーキ、焼き菓子、生菓子、パンなどが多数並んでいる。結局あれもこれも、お土産にも自分用にも明日の朝ごはんにもと、どんどん買ってしまった。一旦ホテルに戻り、近くにあった地元の男たちでにぎわういかにもおいしそうな店、呉師大衆飯店で景子さんと夕ご飯。炒飯、トマト卵炒め、野菜と牛肉炒め、ハマグリのスープなど。食後、景子さんと別れ、我々はCHOU YIが今夜DJをしているというカフェ小島裡(SIDOLI RADIO)へ。地下の小さなスペースには、レコードとカセットテープショップがある面白いスペース。この建物も奥が吹き抜けになっていた。CHOU YIは、多分10年くらい前に東京やソウルなどのアートブックフェアで知り合って、太宰治の『正義と微笑』をモチーフに作品を描いてもらったり、2021年には「閲読台湾!」という台湾文学のブックフェアのメインビジュアルを描いてもらったりと、交流が続いている。2022年、名古屋城で小泉今日子さんの朗読会を開催した際には、大ファンだとはるばる台湾から来てくれた。久しぶりに会えて嬉しい。旅先でのちょっとした夜遊びにテンションもあがって、嬉しい気持ちのまま歩いてホテルまで帰る。旅先だと見るものすべてが新鮮で、歩くことが苦にならない。こうして少しずつ、自分の中に地図ができて、街とチューニングがあっていく。

2/15(土) 台湾3日目。朝、手天品のチーズケーキとブラウニー。期待を超える美味しさだった。特にチーズケーキ、めちゃくちゃ好きな感じ。洗面台に飾った花が、朝の光を浴びている。昨夜、景子さんに「明日から展示頑張ってください」と小さな花束を渡すと、交換にと最初に買った一輪を私たちにくれたのだ。ホテルに花があるのってすごくいい。よっさんの四十肩はまだまだ継続中なのだが、今朝は腕があがっている。「お、あがってるね」というと「あがっても痛い」と「咳をしてもひとり」のリズムで言っていた。今日は湯浅景子展の初日だが、私たちはフリーとさせてもらう。午前中からタクシーに乗り込んで台湾原住民博物館へ。士林官邸を通りかかった時「何の建物だろう」と私たちが話していると、タクシーの運転手さんが翻訳アプリを使って「台湾人を虐殺した人です」と言う。ここは蒋介石が暮らしていた場所で、今では一般に公園として解放されている。30分ほどで博物館に到着。台湾には現在、公に認定されているだけでも16の先住民族がいて(公に認定っていうのも変な話だが。)ここでは、その暮しや信仰、衣装などの文化を紹介している。導入の映像(日本語あり)で、昔々、人類は台湾からマレー半島やニュージーランド、イースター島、マダガスカル島へ渡ったのではないかという説(言語的な共通点が多くその最も古い形が台湾に残っているのだそう)が紹介されていて、これまで大陸の一部として見られがちだった台湾の地図がぐるりと変わるような感覚があった。充実の展示にすっかり時間がかかってしまったが、市街地にバスで戻る。ローカルの雰囲気が強めの小さなバスはハイキングスポットである陽明山からの帰りであろう人々でいっぱいで、大盛り上がり。よっさんと離れた席に座って、台湾語のにぎやかなおしゃべりをBGMに車窓を楽しむ。中山エリアを街ブラしながら朋丁(pon ding)に行く。皆さん、景子さんの絵をじっくり観てくださって嬉しい。景子さんが以前から気になっていた台湾のアーティストも来てくださっていて「絵を観て、祝福されている、と思いました」と話してくれた。夜、在廊が終わったらホテルで待ち合わせしてルーローハンを食べに行こう、と約束をしたけれど、景子さんはお腹をこわしてしまった様子。「お粥とか買ってきましょうか?」と聞くと「ルーローハン買ってきて!」とのリクエスト。昨日からルーローハンを食べたがっていた景子さんのため、せっかくならばとチェックしていた黄記魯肉飯に行く。ルーローハンと白菜の煮込み、昼にも食べて美味しかったつみれのスープを食べる。昼に食べたもの、既になんだったか忘れてしまった。あてずっぽうで注文しているので、何だったのかわからないが練り物のつみれがのったまぜ麺みたいなもので美味しかった。そこで丸=たぶん団子、を覚えたのだ。結果、大正解。景子さんにルーローハンと、近くのお店で杏仁豆腐を買って差し入れすると、どうやら復活している様子だったのでお部屋で今日の出来事を共有する。部屋に戻ってから、明日の高雄行きの新幹線の予約をしようと思ったら結構大変でひと悶着。無事に席がとれているのかどうかがわかるまでの二時間が、この台湾旅の中で最も緊張感があったかも。

2/16(日) 台湾4日目。朝、台灣高鐵で高雄へ。電車の中でパンを食べる。よっさんはバリバリしたのがのったパンを食べ「台湾ぽい~」と言っている。調べたところ、肉鬆麵包(ロウソンパン)というソウルフードらしい。1時間半ほどで左營駅に到着すると、台湾・高雄生まれの写真家、富澤大輔さんが改札で待っていてくれた。台湾では血のつながった両親以外に、親同然に面倒を見てくれる存在(人間ではなくて神様の場合もあるらしい)がいて、今日は富澤さんの乾媽(ガンマー)と乾爸(ガンバー)が車で案内してくれる。富澤さんの出版社・南方書局を手伝っている、アーティストのKくんと、写真家のTくんも一緒だ。まずは、月世界。長年、雨や河川によって山が浸食され、泥岩の上に堆積した泥砂が風化してできたという場所で、砂漠のような月のような荒涼とした不思議な風景が広がっている。富澤さんが昔、蚤の市で入手したネガフィルムを現像してみると、この場所で撮られたヌード写真だったという。一周まわったあと、「鶏を食べよう」と近くの飲食店へ。鶏の鍋を中心に、食べきれないほどの料理がテーブルを埋め尽くしていく。そうめんの和えもの、はちの子の炒め物、青菜、サツマイモの粉をまぶした鶏の唐揚げ、豆腐ように漬けた鶏の唐揚げ、豚の皮の和え物などなど。ガンマ―に「富澤さんのことは小さい時から知っているんですか?」と聞くと「ベイビーの頃からよ」と優しい笑顔を見せてくれる。仕事が忙しかったご両親に代わり、週の半分はお二人の家にいることもあったそう。ガンバーが「君たちから見て、私たち台湾人は幸せそうに見えるか?」と言う。我々はとっさにうなづく(道端で昼寝をしているおじさん達や、15時からしか開店しないお店が多いことなどを思い浮かべて)が、複雑な歴史や現在の中国との関係などを考えるとそう単純な話では、もちろんない。Kくんは、料理店の傍らにおいてある段ボールが気になってずっと見ている。ついには交渉して、しょうがとパイナップルの絵がついた段ボールの一部を切り取って持ち帰らせてもらうことに。次なる目的地は石頭廟。サンゴと石でできた洞窟のような寺院で、Tくんが「ガウディみたいだ」と言う。この廟はかつてこの地にあった工場が倒産しそうになった時、近くの小さな廟の住職?動士?が助けたそうで、その御礼にと、従業員たちがこの大きな廟を作ったのだという。山の上まで皆で石や貝殻を運んで、きちんとした設計図もないままに好き勝手に作っていったため、こうした自由な造形になった。大昔の民話みたいだけど、わりと最近の話。台湾は、道教と仏教、儒教と民間信仰が混合しているため、違う流派の神様や、歴史上の人物までもが同じ廟に祀られていることもある。日本における神仏分離がなかった世界線ですね、と富澤さん。私はそういう信仰が大好物なので大喜び。見学を終えるとガンマ―がなつめを買って食べさせてくれる。昨日、景子さんが油化街で買った干しなつめは梅干しのような色だったが、生のなつめは青りんごみたい。そのままかじってみると、梨とりんごの間のようでさっぱりと瑞々しい。暑かったので助かった。お次は、五龍山鳳山寺。あいにくメンテナンス中だったが巨大な済公像がそびえたっている。参拝客の他に、入れ替わり立ち替わり10数名ほどの団体が神仏像を手にもち、爆竹を鳴らし行列で帰っていく姿があった。台湾の寺廟では神仏が遊びに来たりするようで、日本でいうところの檀家さんが神仏を連れてきて、数時間経ったら連れて帰るという風習らしい。突如、頭と足に飾りをつけた人が踊りだす。シャーマンだ。どうやら赤ちゃんの霊をおろしているようでおしゃぶりをくわえたり、水で円を描いてその間をスキップして移動したりをしている。見るものすべてが面白く、興味深い。日が落ちてきたが、最後にもうひとつ、案内してくださるという。美濃廣善堂は、日本統治時代に設立された儒教がメインの聖堂。学問の神様らしく大きな筆がある。コンパクトながら機能的な空間の設計、多彩なタイルを多様した装飾も華やかなのにどこか落ち着いていてとても素敵だった。このあたりは客家の人々の居住地。教育熱心な地域で、近所の子どもたちはこのお堂に集まって、隣接する講堂(こちらも素敵な建物)で勉強をしているのだそう。実際に大学や大学院への進学率がとても高いのだとか。とても気持ちのよい場所だった。移動中、昨日のタクシーの中での出来事を富澤さんに話してみる。富澤さんの祖父は中国で教育を受け、戦後に台湾に渡ってきた外省人で、祖母は日本統治時代(1895-1945)に教育を受けた台湾生まれの本省人。その子どもである父は戒厳時代(1949-87)に教育を受けている。家族のなかでも時代や環境がバラバラなので、国というものに対する考え方が異なるのだそう。けれど皆それぞれに「教育が悪い」と言うのだそう。昨日、私たちが博物館で見てきた、台湾から東南アジアに人類が移動していったのではないかという説も、近年の脱中国の現れだということだった。1990年代以降に生まれた世代は「天然独(生まれながらの独立派)」といわれ自らの「台湾人」というアイデンティティーを強く持っている。また台湾はずっと「独立」を求めているけれど、なにからの独立なのか(中国を取り戻したい、「中華民国」という国から、中国の実効支配から)ということにも変化や種類がある。夕食は、客家料理のレストランへ。レンコンの葉の炒めもの、金柑ソースにつけて食べる蒸し鶏、豚の角煮と冬瓜となつめの煮物など。久しぶりの白米とたくわんもめちゃくちゃ美味しい。ごちそうだ…!と思いながら食べていると、富澤さんが「お正月みたい」とつぶやく。昼ご飯も限界まで食べて、みんな全くお腹すいてなかったはずなのに、なぜか食べれる。食べれるどころか、もう夢中で食べる。『千と千尋の神隠し』で両親がむしゃむしゃ食べて豚にされたのを思い浮かべる。帰り際、ガンバーが、「大輔が本を持ってあなたの店に行ったときに、取り扱いを決めてくれて、展示をしてくれてありがとう。大輔に代わって心から御礼を言います。」と英語で伝えてくれて、なんだかすっかり感動してしまって、本当は富澤さんにあげようともって来ていたお土産のきらず揚げをガンマーとガンパーにお渡しする。「今日は美味しいものをたくさんごちそうになって、美しいものをたくさん見せてくださって、本当にありがとうございました。きっとまた来ます」と、私は日本語で話す。富澤さんが訳してくれる。へとへとに疲れたけれど濃厚な一日だった。

2/17(月) 台湾最終日。朝、昨夜買った果物の残りを食べて10時にチェックアウト。もう一度、油化街にあるお茶屋さんへ。今回は着の身着のまま家を出るだけで精一杯な上、旅程がたてにくかったので事前にリサーチがほぼできていなかった。よっさんは昔のPOPEYEを持ってきて、今更、ここ行きたい、これ食べたいと言ってくる。お茶屋さんも、金曜に油化街から帰った後に行きたいと言い出して、昨夜も「お茶屋さん、朝7時からやってるよ」とあきらめなかった。旅というのは不思議なものでいくつもの異なる「せっかくだから」がせめぎあう。あちこち見聞きしたい欲と、細かく予定をたてずにのんびりしたい欲、リサーチした上で精度の高い旅がしたい欲と、行き当たりばったりの出逢いを重視したいという欲。さらに、日常を忘れたい欲と、暮らすように過ごしたい欲なんてのものある。私は結局、貧乏性で我儘なのでどこに振り切ることもなく、ぼちぼちリサーチしつつも出逢いにまかせて、絶対行きたい!は叶えたいけどすごく疲れちゃうのは嫌。同行者がいれば尚更複雑で、今回も二人で小競り合いを繰り返しつつバランスをとりながら今日まで来た。無事にお茶をゲットし、旅の最後に念願の『漢声雑誌』の出版社兼ショップ、漢声巷へ。ここは6年前にもよっさん一人で仕入れに来たけど、私は初めて。漢声の出版物は、サイズも重量もどっしりしているのでスーツケースに入るだけ卸してもらう。スマホの翻訳と片言の英語、身振り手振りで本の説明をしてくださる。過去に出していた定期刊行物『民間』および、海外向けに発行していた『ECHO』のアーカイブも圧巻の、素晴らしい場所だった。ホテルへの帰り道、バスを待っている間に「饅頭」という看板を発見。粉ものが食べたりない私は、湯気に誘われてよくわからずに「饅頭」を買ってみるが、なにも入っていない純然たるプレーンな「饅頭」だった。ふかふかでおいしいけど。よっさんの「包子」はちゃんと肉まん。バスの中でよっさんが「やりきったね」と言う。やりきった。ずっしりと腕にかかる本の重みが嬉しい。空港で景子さんと待ち合わせ、会えていなかった間の、昨日・今日の顛末を聞く。景子さん、本当に頑張った。やりきったね、と思う。ここに一緒に来れてよかった。なんだかんだで22時頃帰宅。猫たちが元気でほっとする。

2/18(火) 朝、手天品のパイナップルケーキと、小川さんのどら焼きをいただく。鍼灸院から帰ったよっさんが「今日はだらだらするからね」と宣言。もとより私もそのつもり。昼過ぎ、一昨日猫の世話に来た母が冷蔵庫に仕込んでいってくれた鮭の塩麴づけをホイル焼き。ブロッコリー、トマト、もやし。昨日、景子さんを空港まで迎えに来た湯浅さんが「これ、明日のパン」と、持たせてくれたパン。湯浅さんはこういう、さりげないギフトが本当にうまくて、私はいつも感動してしまう。気持ちよく受け取れる、ちょうどいい心づかい。洗濯をしたりお土産の仕分けをしたり、たまった日記を書いたり。あとはもう、何もしない。猫たちがずっと傍で寝ている。

2/19(水) 朝、母が置いていってくれたSUNのトースト。バナナ、ヨーグルト。今日から営業再開。たまりにたまった仕事を片付けていく。Mさんから小包が届いていて、はっと気が付く。そうだ、麦子の命日だ。もう5年たったのか、と思う。あの日、Mさんは麦子が旅立ったことを知って、開店と同時に花とお菓子を届けてくれた。張りつめていた緊張がぷつんと切れて、私は店頭でボロボロと泣いてしまった。あの時にMさんからもらったものを、どう表現していいのかわからない。その後も、Mさんはずっとこの日を忘れないでいてくれる。去年もお花を届けてくれたり、言葉をかけてくれたり。今年は、麦子の出身地(だと思われる)福島県のお菓子、ままどおるを送ってくれた。この季節になるとどうしても麦子のことを思い出すことは増えるけど、今年はちょうど台湾からの帰国の日と重なってしまって忘れていた。飼い主ですら忘れがちなのに、Mさんは覚えていてくれる。本当に、幸せな猫だ。麦子を幸せな猫にしてくれて、私たちも幸せ。夜、豚肉とキャベツの濃厚白湯鍋。いつものご飯になんかほっとする。

2/20(木) 朝、SUNのトースト、目玉焼き。店はさすがに暇だが、我々はまだまだたまった仕事を片付け中。来週に迫った「岐阜駅 本の市2025」の準備にいそしむ。夕方、Rちゃんとよもぎ蒸しに。店の近所にあるよもぎ蒸しサロンは、以前お客さんが「今行ってきました~」とホカホカの状態で来られたことがあったり、カメダビルのサロンirouさんから「あそこの窯はいいですよ!」と聞いたことがあって、気になっていた。台湾に行く前に張りつめてパンパンに仕事をしていたので、これは帰ってきたら確実に体がボロボロになるぞ、と旅行前に思い立って予約しておいたのだ。私はこれが初・よもぎ蒸し。Rちゃんは産院で血流がよくなるからと勧められ何度か別の場所で受けたことがあったらしい。Rちゃんとおしゃべりしながら全身が蒸され、体の芯からぽっかぽかになった。台湾の話からRちゃんが、私トルコか台湾に語学留学したいんですよね、と言い、その後、「今、完全に子どもいないていで話してました!」と言う。いやいや、今すぐは難しくても、十数年後にはまだまだ可能性あるよね、と言い合う。文化がまじりあうトルコの本を原書で読みたいんだそう。夜、昨日の鍋の残りでブロッコリーとトマトの白湯スープ、浜松の餃子。

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EXHIBITION INFORMATION

【EXHIBITION】2025年2月23日(日)~3月16日(月)at ON READING GALLERY
花松あゆみ個展『PAPER ROOM』

※3月1日(土)、2日(日)は休廊

版画作家、花松あゆみによる個展を開催します。

花松あゆみは、主にゴム版画によるイラストレーションで書籍装画、雑誌の挿絵を中心に活躍中の作家/イラストレーターです。ゴム版画特有の素朴で温かみのあるマチエールを活かしながら、物語の気配を想起させる繊細な構図や作風が彼女の持ち味で、どこか懐かしさをおぼえるような不思議なあたたかみを感じます。

当店では3度目の開催となる本展では、様々な「部屋」をテーマにした版画作品と、紙の立体作品を展示します。

【EXHIBITION】2025年2月27日(木)~3月23日(日)at ON READING店内
木村和平 写真展『フォロンを追いかけて touching FOLON』
 

名古屋市美術館で開催中の展覧会「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」の会期後半にあわせ、2月27日より木村和平の写真展「フォロンを追いかけて touching FOLON」をON READINGで開催します。  

EXHIBITION】2025年3月20日(木)~3月31日(月)at ON READING GALLERY
片岡俊 個展『Life Works』

2024年に赤々舎より刊行された、片岡俊による写真集『Life Works』の作品展を開催します。

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♪ Now Listening

Way Through / Cici Arthur

トロントのカントリーミュージックの名手Chris Cummings、アンビエント・ジャズ・シーンを牽引するマルチ楽器奏者のJoseph Shabason、Thom Gillの3名が結成した要注目トリオ"Cici Arthur"によるデビュー作。壮大でいて優しい、内省的でいてドラマチックなアンビエント・ポップ・アルバム。

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今週はこのあたりで。

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